他力と自力と

育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「最強のふたり」 感想 ネタバレ

高品質あっさり風味、スパイスちょっと乗せた良い話でした。

 

2011年:フランス

監督:エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ

映画は全く詳しくないのですが、好きでたまに観ています。

映画館にはなかなか行けないので、レンタルDVDでの鑑賞が主になります。

どんな映画を見たか、すぐ忘れてしまうので、備忘のための感想駄文です。

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 

ずっと観てみたかった作品、お正月映画として放送していたのを録画していたのですが、深夜に子供に起こされた時に少しずつ観ていました。本当は映画を観ている時には一度も中断したくないし目をそらすこともしたくないのですが、今の生活で映画を観るためにはこんなスタイルになってしまいます。

なので、日を何日もまたいで、しかも吹き替え版での感想となります。

 

雑にあらすじ

パリに住む富豪の初老の男フィリップは、頸髄損傷で首から下を動かすことができません。彼は秘書と共に住み込みの介護人を探しており、そこにスラムの黒人青年ドリスが面接にやってきます。ドリスの目的は不純なものでしたが、仮雇用のあとフィリップは彼を雇うことにしました。

ドリスはぶしつけですし、障害者が傷つくようなことも平気で口にしますが、その変に気を使わない裏表のない態度に、自分を障害者としてではなく同情せずに一人の人間として向き合ってくれる人とフィリップは感ます。

立場の全く異なる二人の介護生活の中友情を育んでいく、そんなお話です。

 

オープニングかっけー!!

さも「心暖まる良い映画」っぽいジャケットのイメージから持っていた心構えからすると、意外なオープニングから始まりました。

夜のパリを訳あり風の男が二人、高級車に乗って飛ばしています。一人はハンドルを握る黒人青年、もう一人は髭を蓄えた初老の男。ちょっと姿勢が不自然。流れるのはピアノの曲。画面も高級感のある質の高い絵作りですが、その分ちょっと緊迫感があります。

ですが二人が会話を始めると、見た目の年齢差にかかわらず、二人は気の置けない間柄であることが伝わってきました。

やがてパトカーに捕まるのですが、二人は「障害者が死にかけてる」という演技をしてその場を乗り切り、パトカーに先導されて病院に向かうことに。車内で爆笑する二人はおもむろに選んだ曲は・・ノリッノリの「セプテンバー!」。

すると雰囲気は一変、セプテンバーをバックにオープニングクレジットが始まるのですが、パリの街を飛ばす車と二人をカッコ良くスプリットスクリーンで見せてくれるのです。アバンタイトルにちょっと緊張感があった分、ノリノリの曲と楽しそうな二人の様子をスタイリッシュに表現するこのシーンに私もつい笑顔、カッコ良かったです!

 

センスが光る演出

この映画のルックや選曲、雰囲気が高級感があるというか、質の高いものでした。それでいてそこばかり狙いすぎていないというか、決して見せ付けるわけではなく、さりげなくもカッコイイのが演出センスが良いなーと感じました。

単にほんわか良い話としてではなく、エッジの効いたかっこいい映画です。

 

差し込まれるタブー

障害者と介護者を正面から扱うこの映画では、数々のタブーを山椒のように効かせてきます。

例えば障害者であるフィリップに対するドリスの態度。「俺なら自殺してる」とか「これは健常者用だからだめ」とか、映画であることは分かっていつつもちょっとドキッとさせられる台詞があります。また、本当に感触が無いのか確かめようと熱湯を脚にかけるなど、思いついてもやっちゃいけないことをあえてやってきます。

ドリスはオペラやクラシックなど、かしこまるべきところで表層を素直に観て爆笑したり文句を言います。これも気の弱い私は周囲の人への迷惑を考えてドキドキしてしまいました。

そのほか動けないフィリップをチョビ髭にして敬礼させるなど、できれば避けた方が良いようなおふざけで爆笑するなど(さすがにフィリップがこれはまずいと言ってましたが)、こういったいたたまれなくなるようなタブーをドリスが軽やかにちりばめていることで、このルックの良い映画の印象を所々締まったものにしていると感じました。

 

フィリップにしかみえない

フランソワ・クリュゼさん演じる首から下が動かないフィリップですが、 これが本当に素晴らしい演技。そういう人にしか見えません。最も印象に残ったのが、笑ったときの細く垂れた目じり。すごく可愛くて魅力があり、ドリスといる時にどれだけ楽しいのか伝わってきます。

演技のことは全くわからないのですが、フィリップを演じるのは非常に難しいことは想像にたやすいです。まずは身体の状態を表現した上で、首から上だけの表情やしぐさなど限られた中で彼の内面まで表現しなければいけません。ですがこのクリュゼさんの演技は本当に素晴らしく、フィリップの感情のみならずこれまで生きてきた経験の深み、さらにフィリップ自身は気付いておらず周囲の人だけが知っている彼の性格まで表現しているように見えます。

その他にも出演している役者の皆さんは素晴らしく、配役もぴったりでしたが、特にフィリップの演技がこの映画レベルを引き立てているように感じました。

 

ついニヤニヤさせるふたり

タイトルは「最強のふたり」ですが、私にとっては「最強の(笑顔で楽しそうにキャッキャウフフしている)ふたり(を見てニヤニヤする映画)」でした。とにかく2人でじゃれあってるのが楽しそうで。

フィリップは非常にリッチながらも身体のハンディキャップによって制限された生活を送っています。そんな彼の常識の制限を、ドリスは軽やかに突き破ってフィリップを新しい世界に誘うのです。フィリップは例の垂れた目でとても楽しそうにしていて、ドリスもそんなフィリップの様子を喜んでいるよう。そんな2人が仲良く楽しんでいる姿に観ているこちらもこそばゆくなるような気持ちも抱えながら、でも嬉しくてニヤニヤしてしまうのでした。

 

名作か、と言われると・・

と、ここまで褒め一辺倒でよっぽどいい映画のように思われるかも知れませんが、残念ながら私にとっては「人生ベスト100」みたいな感想にはなりませんでした。。

前半はサイコーだったのですが、期待していたよりずっと浅い話として終わってしまったように感じたのです。

いくつか要素があるのですが、最も気になってしまったのが2人の仲の良過ぎさ。私は鑑賞中、「この2人がなんらかの原因で仲違いしてしまい、お互いの本音を曝け出した上でまた2人で生きていくようになる」と思い込んでいて、さてどんなドラマが起きるんだろうと怖いながらも構えていました。なのですが、実際にはドリスの家庭のために仕事は円満退職、新たな介護者にキツくあたってイライラしたフィリップを見かねた他のスタッフがドリスを呼び出し、そのまま元サヤという平坦すぎる展開。この2人は結局、一度も本音をぶつけ合うことなく(いや最初から曝け出し続けていたのかもしれませんが)、それぞれの人生観をぶつけ合って深まること無く、最強だったのです。この平坦さを浅く感じてしまったのでした。

また、ドリスの背景も薄く感じてしまいました。フィリップと正反対の人生を歩んできたスラム出身であるはずなのですが、彼は最初から非常に明るく思いやりがあります。多少うざいところはありますが、最初から最後まで良いやつなのです。なので、実は彼が抱えている問題も彼ならばそんなことにならないだろうとリアリティや切迫感を全く感じず、机上で考えてとってつけたような背景にしか感じられなかったのです。ドリス側の問題をフィリップにぶつけることなくフィリップスが受け入れていることもなく、ドリス側の成長をあまり感じられません。フィリップの状況と対になっておらず、これにも本作を浅く感じてしまいました。

途中から2人がいちゃいちゃしているのを繰り返すことにだんだん飽きてきたところに、そのまま何もドラマが無いまま結果浅い話に終わってしまった感じで、私にとっては前半の期待感に水をぶっかけたように尻すぼみになってしまいました。

 

私にとってはその辺が引っかかってしまいましたが、とても質は高いし良い話であることには変わりはないかとおもいます。好きな方なら絶妙にほっこりできる良い映画だと思います。

終盤にオープニングに話が戻る円環も良かったです。軽く良い話を見たいときなどにおすすめです。