他力と自力と

家事と育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「キャプテン・フィリップス」 感想 ネタバレ

虚しい気持ちになる話が題材ですが、エンターテインメントとして面白く仕上げられている作品でした。

 

2013年 米国

監督:ポール・グリーングラス

映画は全く詳しくないのですが、好きでたまに観ています。

映画館にはなかなか行けないので、レンタルDVDでの鑑賞が主になります。

どんな映画を見たか、すぐ忘れてしまうので、備忘のための感想駄文です。

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 

 

熱を出した1カ月の娘、下手すりゃ一晩中抱っこしてなきゃいけないかも、と抱っこしながら観られるように映画を観ることとし、こんな時はメジャーな大作が良いなと、トム・ハンクスさんの力を借りるべく本作を借りてきました。

実際にほぼずっと立って抱っこしながら観賞となりました。音はできるだけ小さくしていたのでその部分の演出を味わうことはできませんでしたが、字幕なので話はわかりますし、想像していた以上に面白くて、大変助けられました。

 

単なるヒーローの話ではありません

本作は実話ベースだそうです(ソマリア沖2009年4月12日の事件 - Wikipedia)。アフリカへの援助物資を運ぶ船がソマリア沖で海賊に襲われ、船長は人質となります。その救出までを描いたというストーリーです。その船長フィリップスをトム・ハンクスさんが演じています。

実際にこの事件で人質となったフィリップス船長が書いた実話の本があるそうですが私は読んでいないため、映画化の際に取捨したエピソードはわかりませんし、どこまでが事実でどこからが創造的な話かはわかりません。それでも感じたのは、監督は本作を単なるヒーローものとはしないように意識したのではないか、ということでした。

ソマリア沖の海賊の話はたびたびニュースで取り上げられていましたが(日本の自衛隊も貢献していますね)、その人質になりながらもメンバーと共に生き伸びたフィリップスさんは称賛されるべきでしょうし、海賊による事件を見事に救ったネイビーシールズの活躍も素晴らしいものです。なので幾らでもそういったヒーロー達の話にできたでしょうが、監督はそのような話のみに終わらない描写をしているように感じられました。

 

海賊側の事情を描いている

序盤に海賊達が船に乗り込むシーンがあるのですが、貧しいソマリアの街で銃で脅され金をせびられ、海賊行為をするしか選択肢が無い、という状況の描写を入れています。正直ちょっと何が起きているか私には把握しずらい感じだったのですが、そこを丁寧に描かないのもまたリアルに感じました。それ以外にも海賊メンバーそれぞれのキャラクターや立場も描かれます。

これらをみせられてることで、正義対悪という単一的な構造とは捉えられなくなります。

 

先進国と後進国の悲しいまでの差

フィリップさんは家族想いで仕事に対しても厳格、知識や指導力もありマニュアルの熟知や危機の対応能力もあります。特に一度目の海賊の襲来を撃退するために次々と繰り出す対策に、船の知識の無い私はいちいち「なるほどな~」と感心させられました。海賊が乗り込んできた後の対応も機転が利いていて、他の船員をしっかり無事に解放に導きます。

このように視野が広く見事なリーダーシップを発揮する彼ですが、あくまでアメリカ側の視点しか持っていません。海賊のメンバーが元々は漁師であると聞いたとき、彼は「漁師ちゃんとやればいいのに」というようなことを言うのですが、海賊側リーダーのムセは即座に「アメリカならな」と答えます。フィリップスはソマリアという国の脅威は知っているものの、その実情は知らないことが見えます。

漁業で食べていけないのは先進国が乱獲しているからという理由もあるそうです。海賊に乗り込まれた船がアフリカへの支援物資を運んでいるのに、彼らは海賊をやるしかないという状況であることも皮肉を感じます。

ソマリアの実情を知らないという点で、私はフィリップスと同じ側の視点で観ていました。終盤フィリップスが浴びせられた血は、先進国側が後進国の犠牲の上に成り立っているんだぞと突きつけられたような気分になります。海賊が船長を拉致してソマリアに向かっている脱出船をネイビーシールズ(アメリカ海軍の特殊部隊)が取り囲んだ場面のあまりの力量の差に、小国の先進国に対する無力さを見せつけられました。

 

ちゃんとエンターテインメント

そんな難しい国際情勢が背景になっていて重みを感じますが、暗くて説教臭い映画ではありません。本作が素晴らしいのは、そんな状況を我々に知らしめた上で、展開している話や演出がエンターテインメントとして面白いということです。

スリリングな展開には飽きる暇が無いほどですし、アメリカ側のマニュアルの質みたいなものもいちいち感心させられます。海賊側の事情も描写されているので、フィリップッスを含めたそれぞれに芽生える人間関係の変化も面白かったです。この作品では3人のキャプテンが出てきますが、それぞれが決断をしながら状況に対応しているのが印象的でした。

 

まとめ

先進国日本に住む私にとっても身につまされる話でしたが、リアルな描写やスリリングな展開にあっという間に134分が過ぎました。大半の時間は、熱を出した1カ月の娘を抱っこで寝かせながら観ていましたが、全然辛く無かったです。それぐらい面白い作品でした。