他力と自力と

家事と育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「殺人の追憶」 感想 ネタバレなし

見えているのに、面白いのに、掴めていない。

やはり、そんな映画でした。

 

2003年 韓国

監督:ポン・ジュノ

映画は全く詳しくないのですが、好きでたまに観ています。

映画館にはなかなか行けないので、レンタルDVDでの鑑賞が主になります。

どんな映画を見たか、すぐ忘れてしまうので、備忘のための感想駄文です。

 

※今回はネタバレなしです。

 

名作と噂されていたので期待値をあげてみましたが、やはり抜群に面白い、けど言葉にはしづらい、そんな作品でした。

 

ポン・ジュノ監督について

ポン・ジュノ監督作品でこれまで私が観たことがあったのは

ほえる犬は噛まない (2000)
グエムル-漢江の怪物- (2006)
母なる証明 (2009)

なのですが、いずれも面白い!衝撃も感じる!・・けどそれだけには収まらない得体の知れない奥深さのようなものを感じていて、一度や二度の観賞ではその映画の表層部分にしか触れていないのではないか?という気になります。なんというか、定規だけでは映画について測れず、もうひとつ3次元的な定量をしないと理解できなそうなのだけど、何の単位を使えばいいのかもわからない、みたいな。

特に「母なる証明」の置いてきぼりをくらったような衝撃的なラストで、その感覚は決定的になりました。

本作は2003年の作品だそうですが、やはりポン監督作らしく、面白く、衝撃的で、でも掴み切れていない感覚でした。言葉にはしづらいのですがその中でも思いついた拙い感想だけ書き残しておこうと思います。

サスペンスなのでネタバレ無しで。

 

雑なあらすじ

Wikiによると、「軍事政権下で比較的治安のよかった1980年代に発生し、10人の犠牲者を出した華城連続殺人事件を元にした戯曲の映画化作品」とのことです。

1986年、韓国ののどかな農村で女性が強姦の上無残に殺害されるという連続殺人事件が起こります。地元の刑事であるパク・トゥマンは調査を開始するが犯人は見つからず。やがてソウルからソ・テユンが合流し共に犯人を追うのですが・・。

二人のやり口は正反対。パクは根拠の薄い容疑者を冤罪も辞さない拷問で締め上げて自白を得ようとするのに対し、ソウルから来たソは「書類に全てが書かれている」とデータ至上主義。

対立する二人だが共同で捜査を進める中でも殺人が続いていく・・。

というのが序盤です。いわゆるクライム・サスペンスというジャンルですかね。

 

土臭さ

舞台が30年も前の軍事政権下の韓国、しかも田舎ということで非常に土臭い感じがあります。洗練された要素が無く、人間味がむき出しになったような時代感と人物描写。ちょっとした野蛮さであったり暴力性であったりを表現しているようです。

パクの捜査方法は暴力や捏造した証拠で自白を取るような完全にアウトな方法で犯人に仕立て上げようとしているのですが、「あ~当時はこんな感じだったんだろうな」と妙な説得力があるのです。

こういった、当時の韓国の土っぽさを客観的に表現するのがパク監督の特徴かもしれませんね。

韓国映画と言えばお決まりのドロップキックですが、本作では大サービスで3回ぐらい使われていました。

 

ギャグ

前半はギャグ満載です。

前述したパクの捜査方法などは、ありそうながらも完全にギャクテイスト。現場に犯人の陰毛が落ちていないことから、「下の毛が無い」といって銭湯で周りの男の下半身を調査したり(まだ生えていないような男の子が出てくるとこなんか最高)、頭が弱い容疑者に自白させようと台詞を覚えさせるものの、どうしても決定的な一言を録音できなかったりなどなど、モラル的に酷いことを逆手にとったような、どぎついギャグを見せてくれます。

ギャグとしても笑えるのですが、このドギツさもパク監督の特徴かもしれません。

 

サスペンス

捜査中も連続殺人が続き、捜査は難航します。

前半はコメディ色が強かった映画も、刑事たちが精神的に追い詰められていくのと同様に重苦しいものになって行きます。

 

まとめ

サスペンスということで極力ストーリーには触れないようにすると、私ではこんな感じにしか書けませんでしたが、観終わってみるとやはりポン・ジュノ監督の魅力がぎゅっと詰まった映画でした。

ピントの位置や深さを変えながらの印象的な画像、突拍子も無く人が落ちてくるようなギャグ、しかもそれが後半のシリアス展開で生かされるような構成、底知れない深さに触れきっていないような感覚。それでいて映画として抜群に面白い。

直ぐにもう一度観たくなるようなタイプではなく重いです。重いけど見やすくあっという間に時間が過ぎるほど面白かった。不思議な感覚で後味の悪さもありますが、そんなタイプの映画が観てみたい方にはお勧めです。

 

それにしてもこの映画が公開された2003年は「オールド・ボーイ」も上映された年なんですね。韓国ノワールがいよいよ世界に認められた頃なのかもしれません。