他力と自力と

家事と育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「世界の果ての通学路」 感想 ネタバレ

多様性と普遍性、そして希望のドキュメンタリーでした。

 

監督:パスカル・プリッソン

2012年:フランス

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 

 

 

妻が産休に入ったので、一度ぐらい私も有給を取って、久しぶりに二人だけでランチをしようということになりました。せっかくなので映画でも、とレストランの近くの映画館で時間の都合の合うものを探していて、この映画を知りました。

 

ケニア、モロッコ、アルゼンチン、インドのある小学生が学校に通う通学の様子を映したドキュメンタリーです。映画の冒頭、「毎日、学校に通える幸せを噛みしめて欲しい」という監督からのメッセージが示されます。

私は「あぁ、大変な通学の様子を見て、普通に学校に行けるってありがたいことだと省みろってパターンの映画だな」と思ったのですが、直ぐにその考えを改めることになります。その「大変さ」が半端無いのです。

 

ケニア

冒頭、土を子供の手が掘るシーンから始まります。何が始まるのかと思ったら、掘るほどにじわじわと湧いてくる水を汲んでいたのです!その水は飲み水にもなっているようで、既に家族を支える戦力になっている様子。ジャクソンくんはそのうえで、妹と二人で毎日片道15キロの道程を足だけで通うのです。

それだけでもすごいのですが、普通に野生動物がいるサバンナを突っ切っていくんですね。だからサバンナに入る時は丘に登って、象の群れの居場所を避けて通学ルートを変えているのです。後で調べるとアフリカでは毎年4~5人の子供が象などの犠牲になっているようで、本当に命がけで通っているんですね、毎日。

途中で象に襲われかけて二人で必死に逃げるシーンがあります。無事に逃げ切ったものの妹はすっかりしょげてしまうのですが、ここまで「速くしろ」「急げ」と厳しかったお兄さんが、木の実を食べさせて歌を一緒に歌って、リラックスさせてあげるんですね。我が家にも兄と妹がいますので、もうこのシーンで涙があふれてきました。

 

モロッコ

教育を受けるために、毎週22キロもの道のりを全寮制の学校に歩いて通っているザビラちゃんという女の子です。22キロと言っても舗装されている道ではなく、岩だらけの山道を通います。途中で同じような境遇の友達2人と合流し、励まし合いながらヒッチハイクしながら通います。ヒッチハイクはなかなか上手くいきません。女の子が勉強するということも、一般的に働いている大人にとっては、そんなことを思いやる余裕がないようです。女性が教育を受けるということを社会的にまだまだ受け入れていない様子に見えました。

ザビラちゃんは生きたニワトリを一羽持っています。これは市場に着いたときにお菓子と物々交換をするんですね。大量なので月曜日から金曜日までの寮生活をこれで持たせるのでしょう。

 

アルゼンチン

アンデス山脈の山奥の牧場から18キロ先の学校に毎日通うカルロスくんとその妹さん。二人は一頭の馬にのって通います。馬だから楽かというととんでもなくて、石が崩れそうな山道を下ったり崖の真横を通るなど、こちらも命をかけて通っているんですよね。

そんな過酷な自然環境の中を、兄妹二人きりで通うのです。途中でポツンとある祠に赤い布を巻いて二人とも安全を祈ります。心細い中二人が支え合っている様子がうかがえて、我が家にも兄と妹(以下略)。

 

インド

男3人兄弟の長男サミュエルくんは、脚に障害を抱えて歩いて通うことができません。そこで、自家用の車いすに乗って、二人の弟たちが4キロの道のりをえっちらおっちら運ぶのです。4キロといっても舗装されている道ではない上、車いすもしっかりしたものではないので、重労働になります。

途中にエンストした車が道をふさいでいたり、タイヤが取れたりとアクシデントに合いながらも、兄弟は楽しそうに力を合わせて学校に向かうのです。そして学校に着いたら他の級友が寄ってたかってサミュエルくんを机に運んで行くんですよね。障害を抱えた友人への距離感がとても近いように感じました。

 

家族の想い

それぞれ異なる環境ではありますが、彼らの家族の愛情や心配は各国共通です。そしてどの家族も、子供が学校に通うことを肯定して、「しっかり勉強するんだぞ」と伝えています。勉強することが子供のためになるのだと、心底信じているようです。

 

勉強するということ

映画の最後に、みんなが将来の夢を語るシーンがあります。子供たちが、なんのてらいも無く夢を語るその希望に満ちた表情に、私は感動してしまいました。彼らにとっては、勉強というのは未来を切り開く手段であり、未来を見据えて勉強するために、毎日大変な思いをして通学しているんですね。

 「毎日、学校に通える幸せを噛みしめて欲しい」というメッセージは、世界には自分より大変な思いをして通学している人がいるんだからさ、という説教じみたものではなく、「勉強できるということは、夢をかなえられる素晴らしいものなんだ」という、勉強に対する賛歌であると私には受け取れました。

 

これって子供たちだけではなく、大人にとっても一緒ですよね。将来の夢や希望があるならば、堂々とその姿を目指して日々勉強なり練習なりすること。もちろん可能性の幅の大きさは子供たちにはかないませんが、人生の半ばを越えたおっさんだって、夢や希望を持っても良いじゃないですか。一つぐらい、達成できる何かがあるかもしれない。私は毎日の中に未来への希望があるんだ、とこの映画に教えてもらいました。

 

まとめ

この映画はドキュメンタリーということですが、演出っぽいことは結構多いと思います。ですが、あまり気になりませんでした。各国の自然描写の過酷さと美しさ、文化の違い、ですがその土台に共通している、人類の普遍的な一面を見ることができます。

いまこの瞬間も、たった一人で通学している子供がいるかもしれません。無事に通学できて彼らの希望が勉強によって少しでも近付きますように。

子供たちが小学生ぐらいになったら、この映画見せてあげたいなぁ。