他力と自力と

家事と育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「パラノーマン ブライス・ホローの謎」 感想 ネタバレ

きっと誰かが気付いてくれる。噂にたがわぬ、良い映画でした!

 

2012年 米国

監督:クリス・バトラー、サム・フェル

映画は全く詳しくないのですが、好きでたまに観ています。

映画館にはなかなか行けないので、レンタルDVDでの鑑賞が主になります。

どんな映画を見たか、すぐ忘れてしまうので、備忘のための感想駄文です。

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 

 

もともとストップモーションアニメは好きで、同じスタッフのコララインももちろん、まだ感想は書いてませんが、フランケンウィニーも良かった。ファンタスティック・ミスター・フォックスも大好物。この独特でなんというかフェティッシュな世界観やストーリーと共に作り手側の執念のようなものを感じて、そんなところが大好きなのです。

ということで、この作品も早くみたいなと思っていましたが、実際に見てみたところ、やはり大満足!素晴らしい作品でした。

 

「恐怖」の本質

私は、このホラーテイストの話を考えたスタッフたちが、恐怖というものについて考えていった先に、「理解できない相手に恐怖を感じる」というこの作品のテーマまでに考えに至ったのでこういう話になったのかな~などと思いました。

主人公のノーマンは、死者の霊を見て話ができるという能力があります。ですが、その力は家族にすら理解されず、家でも街でも変人扱い。彼が登校するシーンで、街の至る所にいる霊とは挨拶をするのですが、生きている人間とはコミュニケーションを取ろうとしません。彼はもう何を言っても信じてもらえないということを知っているのですね。そして孤独を選び、部屋にいるおばあちゃんの霊とホラー映画だけを友達に生きています。

相手を気味悪がって理解し合わない。理解できないからこそ、よく知らないからこそ自分の中で思い込みが増幅して、かえって対象に対して恐怖を感じるというのは、普遍的な人間のありようですよね。

 

特殊な能力を持った少年

特殊な能力を持っているために、他の「一般的」な人たちから距離を置かれてしまうような作品は枚挙にいとまがないと思います。ですが、その能力を持っているのが少年ということで、私はちばあきお先生の「ふしぎトーボくん」という漫画を思い出しました。

彼は動物や植物と話すことができて、それゆえ動物たちとはすぐ友達になれますが、人と上手く付き合うことができません。気味悪がられいじめにあっていたという設定だったと思います。

トーボくんは30年近く前に読んでいた作品なので曖昧な記憶なのですが、ノーマンもトーボくんも、共にとても孤独です。どちらの作品もギャグは満載なのですが、その寂しさが作品の印象に強く影響しています。

 

理解

ノーマンはその特殊な能力によって、同じ能力を持つ叔父さんに魔女の封印を守る役割を受け継がされます。ですが失敗し、過去の死者がゾンビとなって蘇ってしまいます。

ですが、そのゾンビは人を襲うどころか、ショットガンを嬉々として放つ「一般人」に迫害されます。人々は一斉に暴走、ゾンビと共に街を救おうと奮闘するノーマンも「やつらの味方」とい理由で殺そうとします。

私はこういう描写に非常に弱く、この場にいたらきっと暴徒側にいるんだろうな~などと思って、自分たちの集団の常識に即したものの見方に盲信してしまう自分をみせつけられるような気がしてしまうのです。

今現在も、なにも考えていないようで行動の一つ一つ、態度の一つ一つにこういう自分の価値観と異なるものへの決めつけが表れているのではないかと思うのです。それでも、いや怖いものを排他する本能は必要だしな・・などなどぐずぐずと考えてしまうわけですが。。

 

さておき、これはあるノーマンと同じ能力を持った少女が、魔女であるとのレッテルを貼られて300年前に殺された状況と一緒でした。「理解できないものに対する恐怖」のため集団で排斥しようとしてしまいます。ゾンビとなった7人は、無慈悲にも彼女を死刑にした裁判員だったのです。

ゾンビは魔女と化した彼女の呪いにより、迫害される側になってしまったわけですね。

 

暴徒と化した住民からノーマンもまた同じ目に合いそうになった刹那、姉や友人たちが味方になってくれました。彼にはどれだけ心強かったことでしょう。

ノーマンは武器を持ってゾンビたちを取り囲んでいる人たちを説得しようとします。彼らは襲う気は無いんだと。その想いが通じ、人々はゾンビの事を理解し受け入れます。少女がもいだ腕を返したのが印象的でした。

理解によって赦しあえる場合もあるのですね。

 

絶妙な着地

ですが、無慈悲に殺された少女は別!ノーマンは彼女も説得しようとしますが、彼女の怒りは収まりません。正直、私も「やれやれもっとやれ!」と思いました。「理解して赦してあげようよ」と説得するには、あまりにも彼女が救われなさすぎると感じたのです。もちろん結果的に彼女はノーマンの説得に応じ成仏するのですが、その着地ポイントが好きでした。

ノーマンは同じ能力を持って同じように迫害されていたので、彼女の気持ちがわかってちょっと寄り添えたこと。理解してもらいたいというのも人間の欲求ですよね。そしてその本気さも手のぬくもりを通じて伝わったっぽいこと。そして成仏すれば天国でお母さんと会えるという理由によって、恨みは晴れていないままの表情ながらもちょっとノーマンに身体を預け、成仏を選んだこと。

少女が納得の笑顔で去っていくシーンは見たくなかったので、本当に絶妙な着地をしてくれました。少女の魂がお母さんと会えることを祈ります。

 

辛口ギャグ

私のつたなすぎる文章を読み返すと非常に物悲しく辛い話に見えてしまうかもしれませんが、この作品の秀逸なところは何よりギャグが面白くて、本当に笑えるのです!

「一般人」を皮肉めいて表現するブラックさも良いですし(エコを憂った直後にゴミを投げ捨てるとか、ショットガンぶっ放す人に「それは警察の特権だ」とか)、車の中の姉コートニーとミッチの不毛すぎる会話と、ニールの「うぜえ会話」という突っ込み。

ミッチが見るからに頭が平らで脳みそが不足してそうで、魔女の墓を探すために資料を探しているのに、いきなり筋トレはじめちゃうとか良かったですね~。

あとは自動販売機のお菓子のとこも緩急があって最高。

 

特に気に入ったところのみを挙げましたが、全編にわたってちょっと大人なギャグがちりばめられていて、大いに笑える作品でもありました。

 

まとめ

人形劇というリアルな質感かつ美しい映像も素敵でしたし、作り手の執念を感じました。その一端をエンドクレジット後に見ることができるので、絶対に最後まで見てほしいです。

 4歳1カ月の息子は、メニュー画面の時点で「もぅ~怖いじゃんこれ」と言っていたので子供とは見られませんでしたが、メッセージもストーリーも映像も、本当に素敵な作品でした。