他力と自力と

育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「アーティスト」 感想 ネタバレ

美しく・気高く・やさしい映画でした。

 

2012年:フランス

監督:ミシェル・アザナヴィシウス

映画は全く詳しくないのですが、好きでたまに観ています。

映画館にはなかなか行けないので、レンタルDVDでの鑑賞が主になります。

どんな映画を見たか、すぐ忘れてしまうので、備忘のための感想駄文です。

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 


このデジタルの時代にあえて作られた白黒映画、アカデミー賞部門獲得ということで知ってはいたのですが、なんとなく退屈そうで手が出ていませんでした。

なのですが、実際に観てみると作り手の創意工夫誠意によって、現代に創る白黒映画で無声映画でしかできない素晴らしい作品でした。

白黒

映画は白黒映画です。
久しぶりに観るとやはり雰囲気がありますね。


うまかったな、と思ったのが映画内で没落する無声映画もその対照とされるトーキー映画も、どちらも白黒映画。なので白黒映画であっても、トーキーの「新しさ」という演出がしっかり効いていました。

これが白黒→カラーという新旧の題材にすると、どうも白黒画面では新しさを表現しきれないですよね。あがなえない時代の移り変わりの対比を表現しきる上で、この材料を選んだのがうまいな~と感じました。

 

そして深く印象に残るシーンも白黒を活かしたものでした。
あのタキシードにミラーが袖を通し自分の腰を抱いたシーン、黒い服と白い肌、そしてそれを活かす構図も含め、彼女の心情を伝えると共に本当に美しいシーンと感じました。
その直後、特徴を出すために使ったのがほくろ(黒子)というのもにくいですね。
白黒だからこそできたシーンや演出の数々、私は美しさと共に作り手側の高い志を感じました。

 

無声映画

この映画は無声映画でもありました。
ですが声が無いということが制限になるどころか、これまた素晴らしい演出になっています。


もちろんその白眉は最後の,「BANG!」でしょう。
結論を知らないで観ていたので、ハッピーエンドで終わって欲しかったのに・・と思ってしまいました。


あと好きだったのが病院でのシーン。

ヴァレンティンのミラーに対する想いが、台詞ではなく道具を使って表現されます。それをミラーが見たときの気持ちと同じくらい嬉しい想いを、観ている私も感じられたのではないかと思っています。


テンポも良かったですね。
冒頭、オーディションを受けるミラーが知恵を使って目立ち見事合格するシーンがあるのですが、ああいったものも無声映画ならではの手際で見せてくれました。


あと印象に残ったのは犬。
とても芸達者なのですが、台詞が不要であるのでその芸が活きて、主要な登場人物と同等以上の重みのある存在となっていましたね。

 

台詞も限られたものだけが文章として表示されます。

そのため印象に残りやすいと同時に、白黒画面の品の良さと相まってシンプルな気高さのようなものすら感じました。

 

無声映画を超えた演出

この映画は単に無声映画という枠のみにおしこめておらず、むしろ現代の目から見てもフレッシュな演出があります。


特に効いたのがあのコップを置くシーン。

人間とは世界観に慣れてしまうもので「無声映画を観るモード」に自然にシフトしていたなか、さりげなくも音が鳴ったため非常に印象に残りました。普通の映画でコップの音がこんなに重要になるなんてあまり無いですよね。
これは音が鳴りだすもののヴァレンティンの声だけが出ない、という彼のみた夢のシーン。彼が恐れていたトーキー時代到来を表すという、すばらしい演出でした。


この悲劇の対比として、映画最後のダンスが終わった時ヴァレンティンの荒くなった呼吸が聞こえてきます。この瞬間にヴァレンティンが新たな時代にもカムバックできたこと、そして今後の活躍まで分かるのです。


声の出る出ないだけでこの情報量!

無声映画ならではですし、これもまた作り手の意志の高さを感じられました。

 

良い人しか出てこない

この映画は分かりやすいストーリーですが、悪い人が出てきません。
悪人との対比で善人っぷりを描くのではなく、主要な人物が皆やさしいのです(追い込みをかける警官がいましたが・・)。
なので観ていて嫌な気持ちになることが無く、心地よくこのオールドテイストな映画を堪能できましたし、作り手のあの時代の映画に対する敬愛のようなものが垣間見えてますます好きになりました。


あまりにも良性に満ちた映画過ぎて、終盤の悲壮ムードにヴァレンティンは自殺&ミラーは事故死という嫌な予想をしてしまい、そのシーンの後には駆けつけたミラーを誤って射殺とか最悪の結末になるのではないかと冷や冷やしてしまいましたが、これ以上ないハッピーエンド、最後まで良い映画でした。

 

ピンとこなかった点

本当にいい映画でしたが、アレ?と思ってしまった点も何点かあったので、備忘録として書き残してみます。

 

良くわからなかったのが、ヴァレンティンが何故トーキーに出ようとしなかったのか。
これって理由が示されていないですよね?演技が大袈裟とは言われてましたが、トーキー時代に合わせるようにちょっと頑張ってみればいいのに、いきなり映画会社と決別したりして。

あと火事の後ミラーが駆け付けた際の医者達の対応がどうかとか、あのなじった警官の表情が「言ってやったぜ」なのがよくわからなかったりとかありますが、なにより、なぜそんなにミラーはヴァレンティンを愛しつづけるのか?この辺りが見ている間にちょっとだけ気になりました。


でもこんなのは些細な重箱の隅つっつく話ですね。

 

まとめ

この美しく気高くやさしい映画に、私は本当に癒されたかのような気持ちになれました。かといって、単に「いい話」と思わせたいためだけのものではありません。

白黒だって無声映画だって、それを活かした演出によって超フレッシュなエンターテインメントになるんだということを見せてくれた作り手の皆さんに感謝です。

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