他力と自力と

家事と育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「アルゴ」 感想 ネタバレ

絶妙を演出できるほどのクオリティ

 

2012年:米国

監督:ベン・アフレック

映画は全く詳しくないのですが、好きでたまに観ています。

映画館にはなかなか行けないので、レンタルDVDでの鑑賞が主になります。

どんな映画を見たか、すぐ忘れてしまうので、備忘のための感想駄文です。

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 


ゴーンガールを観たときに改めて「べン・アフレックってすげ-」と感じたので、主演でありしかも監督を務め、アカデミー賞まで獲得してしまったという本作を観賞しました。

本当にすごい監督なのかも・・。

 

独特の世界観と存在感

舞台は1979年のアメリカとイランです。
当時の世界感を演出するために服装や髪形やセットを時代に合わせているわけですが、映画の冒頭のワーナーブラザーズのロゴが当時のまま使われたり、映像も当時の映像技術に合わせたかのように粗いものになっています。

つまり、映画の枠組みから当時のままの時代感をパッケージしたような作りになっているのです。


わざわざそのような「冒険」をしたわけですが、そのクオリティの高さによって大成功だったと感じました。
髪形やメガネ、髭の感じなどなど、さも当時の実在の人物に合わせているわけですが、これがまず一点の破たんも無いようなレベル。非常に印象的です。
そしてわざと取り入れている粗い画像も決して眠たい画にはなっておらず、こちらも印象的。
当時の雰囲気に作ってはいますが、そのクオリティはむしろ非常に現代的であり、この演出が独特の世界観を作り上げ、映画もまた特別な存在感を湛えるものになっているように感じました。

 

史実からして荒唐無稽

私はこの映画の題材となったイランアメリカ大使館人質事件というものを全く知りませんでした。

あらすじとしては、1979年、イランの首都テヘランにあるアメリカ大使館にイスラム過激派が押し入り占拠してしまいます。その際に6人の大使館員が脱出、カナダ大使の自宅に逃げ込み匿われました。
その6人をCIAのトニー・メンデスが国外まで救出する、という話。
そしてその方法が「アルゴという架空の映画撮影のロケハンとして来たカナダ人スタッフ」のフリをして帰国させる、というもの。
何故この作戦をチョイスをしたのよwwwと草も生えるような作戦ですが、映画の中でその他の方法は一通り否定されていました。
Wikiなどを見ると史実とはずいぶん異なるようですが、脱出作戦そのものは現実通り。非常に荒唐無稽な史実を題材としているのですね。

 

サスペンス?

荒唐無稽な題材ではありますが、その顛末は有名です。

以下完全なネタバレになります!


つまり「全員助かるハッピーエンドになる」ことを、映画を観る大半の人は知っている前提なわけです。私も何故か、そのことは知っていました。
当然、製作陣もそのことは100も承知でサスペンスとして映画を作っているわけでしょうから、どのようなバランスの作品とするかは苦慮されたのではないでしょうか。


そんななか作成された本作、しっかりハラハラドキドキさせられたシーンも多くありました。
特に序盤の、大使館に押し入ってきているのが見えたあとに占領されるまでの絶望的な空気。実際に部屋に入ってくるまで長いタイムラグがあるんですよね。
ここは結果は分かっているけれども緊迫感がありました。
また、わざわざ本当にロケハンしようとして住民にとがめられた時、車で群衆に囲まれたときなどなど、気の小さな私は「こんな場所耐えられねぇ~」と心底思わされ、こちらもハラハラさせてもらいました。

 

ただ一番の盛り上げどころである、空港に着いてからの脱出に関しては全ての障害を突破するのを知っているせいか、さすがにそれほどでもなかったかも・・。


でもですね、そんなハラハラドキドキというサスペンス要素が難しい場面では
・一番作戦に反対していた彼が、そのペルシャ語を駆使して説得する
・海外に脱出したことを知らせる、伏線回収の言葉
など燃える要素が入っていて、これはこれでグッとくるというか別の方向から感動させてもらいました。

 

べン・アフレック作品

本作はペン・アフレック監督ということでその辺りも楽しみにしていたのですが、結果個人的には驚くべき領域に感じました。
一流映画のクオリティは当然のように張り巡らされている上に、さらに絶妙な見せ方ができているというか。

 

この映画はそのパッケージごと当時のテイストで、しかもハイクオリティに撮られているわけですが、例えば「映画のフリ」をすると思いつくシーンの、猿の惑星の映像とメンデスの顔を交互に写すシーンなんかの、絶妙に味わいのある「当時感」をさりげなく入れてくるあたり。
また洋画に良くある、ふたりでのちょっとした会話シーンで「上手いこと言って面白い」感を出すところも、変にやりとりが上手すぎずに普通の会話の延長っぽくて、これまたこの映画の雰囲気に絶妙に合っています。


ストーリーも絶妙です。
主人公のメンデスは能動的にガンガン動くというタイプではなく、淡々とピンポイントに作戦の準備を実行します。そして実際、その行動が全て脱出には活きてきます。作戦が実を結ぶところがちゃんとわかって観客の私としても把握しやすい。作り込みすぎたキャラクターが邪魔をせず、話が分かりやすく感じられたのです。
でもそんな淡々としたメンデスが、大事な時には奥底には秘めていた情熱みたいなものも垣間見せてきて、感情移入を促されます。このキャラクターの作りもまさに絶妙。

 

ベン・アフレック監督の作品はこれ一本しか見たこと無いですが、ちゃんとわかっていてしっかり作っているように私には感じられました。単に私の好みであったというだけかもしれませんが。

 

まとめ

もちろん、ストーリー上の突っ込みどころは多々感じられます。しかも後から気付くどころか、観ながらにして気付いてしまうぐらい。実際にこの作戦でこの性格のメンデスが作戦を実行していたら、絶対に成功はしなかったでしょう。
でもこれは映画!そんな細かいことはどうでも良いのです。

 

ハリウッド大作・・なのにクオリティの高さと絶妙な作りで、独特の味わいの作品に感じられました。

これが意図して演出したのであれば、本当にレベルの高い監督となっていくのかも。


普通に面白いけどおしつけがましい面倒くささは無い作品なので、一人なんとなく時間があるときにでもご覧になってみてはいかがでしょうか。