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他力と自力と

育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「チョコレート・ドーナツ」 感想 ネタバレ

映画感想

落ち着いた淡々としたトーンでしたが、突き刺さるような映画でした。

 

監督・脚本・演出:トラヴィス・ファイン

2012年:米国

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 

とある土曜日、午後から外出予定だったのですが、その前後3日間も奥さんが外出で私が子守りであったことと、当日はお義母さんが早い時間から来てくださるということで、私は午前中から外出可能となりまして。

ラッキー!せっかくだから映画見よう!と、午後からの用事に合う映画を探して見つかったのがこれでした。

 

お客さんの年齢層は高め

私は最初の観賞では、できるだけ予備知識を入れずに見たいと思っているのですが、この映画に関しては、本当にまーったくどんな話か知らず選んでみました。映画館に着いてみると、お客さんの年齢層は高め。初老の夫婦もいらっしゃいますし、若い方もカップルというよりは夫婦といった感じの方々、そして私のような中年独りのお客さんも多かったです。落ち着いた雰囲気でした。

とはいえ、全体で2割程度の入りだったでしょうか。後から調べると、もう2カ月前から公開の映画だったようです。

 

会場を待って座っていたところ、隣にいた老夫婦が、この映画がTVで紹介されていた時のことを話題にされたので、ここまで来たら一切の情報を入れたくなかった私は、グッズ売り場に退避して時間をつぶしました。

 

この人見たことある!

映画が始まると、少年のようで中年のような男性が夜の街を彷徨っている後ろ姿がしばらく流れます。ピアノだけの静かな音楽が印象的でした。「コメディとかそっち方面ではないな」と分かります。

舞台は1979年のニューヨーク。

一転、華やかなゲイバーのショーのシーンになり、この映画の主人公が登場します。口パクで歌っているのが・・「あ!アリシアの旦那さんの参謀だ!」。

奥さんが大好きで見ているドラマ、「グッド・ワイフ」に出てくるあの人、としか私は知らなかったのですが、後にその歌声を聴いて度肝を抜かれるアラン・カミングさんでした。

 ゲイ役というと、「MILK」のショーン・ペンも素晴らしい存在感でしたが(私のネタバレ感想はこちら)、アラン・カミングさんの演技は妙にリアルに感じていました。後で調べたところ、本人はプライベートでもバイセクシャルであることを公言し、男性と結婚しているのですね。

 

「いわゆる普通」では無い存在

そのショーを見に来ていたポールはステージで歌うルディと恋に落ち、早速車で○○○。ここにきて「ゲイの恋愛の話かな?」と思っていたら、次はネグレクトを受けているダウン症の男の子、マルコが出てきて、映画冒頭で彷徨っていたのが彼であることが分かります。

ルディは母親が麻薬で逮捕されたマルコを引き取って、ポールと共に暮らし始めます。他人同士のゲイと障害者が家族のように暮らす、そんなお話だったようです。

 

ルディはマルコと出会った冒頭から彼を受け入れます。躊躇なくそれを行ったのは、障害を持ちネグレクトを受けているマルコと自分の過去が重なったからではないでしょうか。「障害を持って産まれてきたのは彼のせいじゃない。これ以上苦しい思いをさせたくない」というようなことをポールに言っていましたが、きっとゲイとして産まれてきた彼自身の事でもあるのでしょう。

 

家族愛の映画

私は、いずれ様々な負担に耐えられなくなって、みんながバラバラになっていく辛い話かな、なんてちょっと構えてみていたのですが、そんな心配は杞憂でした。この「家族」が本当~に幸せそうなのです。

ルディがマルコと触れ合う姿に、本当の親子のような愛情と自然さを感じました。ポスターになっている、マルコの肩を抱いてポールを見るルディのシーンは幸せの形そのもの。素晴らしかったです。ポールもまたマルコを愛しているのが感じられ、そんな二人と暮らすマルコも、最高の笑顔を見せてくれます。

 

この映画は、私にとっては家族愛の映画でした。

私がこの映画で一番涙が出てきたのが、特別学級の父兄参観日でマルコが歌うのを二人が見守るシーンです。自分でも急に涙が出てきて驚いたのですが、親の目線として子供を見つめる愛情がシンクロしたのでしょう。

マルコの成長した姿を見る喜びは、まさに私の子供たちへの気持ちそのもの。

愛情あふれる、素晴らしい家族なのです。

 

幸せは続かない

しかし・・マルコと二人は引き裂かれます。障壁となったのは、「偏見・差別」でした。

保護施設に入れられたマルコを取り戻すべく二人は戦いますが、裁判では誰も「マルコの幸せ」という観点から考えず、ゲイの二人であることの問題だけをことさらに取り上げます。彼らがマルコに与えた愛情や環境を知っているにもかかわらず、揚げ足取りとも言える難癖をつけるやつらに、そして一見物わかりがよさそうで、結局偏見にとらわれたままの裁判官に、やっと手に入れた幸せあふれる家族を見てきた私は、血が逆流しそうなほど腹が立ちました。

マルコが、家に戻れるとルディと約束したのに、迎えが来なくて泣くシーンがありました。実の母親と別れた時は泣かなかったのに。マルコにとってのルディが血を越えた存在であることを示していたと思います。

 

以下、最終的なネタバレになります。

 

 

 

それでもあきらめないルディ達に対し、意固地になったとしか思えない「母親を特例で出所させ子供を任せる」という無茶苦茶なやり口で裁判は負けます。母のもとに戻されたマルコは早速ネグレクトを受け、家族を探して夜の街を彷徨います。冒頭のシーンはこれだったのですね。

そしてポールが、今回の裁判の関係者に送った手紙で、3日間彷徨ったマルコが橋の下で亡くなったことを伝えられたところで映画は終わります。映画の中で、ダウン症の人は身体が強くないということは提示されていましたが、まさかこんな結論になるとは・・。

この手紙を、こんな悲劇を引き起こしておきながら、何一つ気にも留めてないやつらが目を通しているシーンが唯一の救いでした。

 

パッションを歌に託して

映画中、ルディが歌うシーンが何回か出てきますが、いずれも印象的でした。

まずポールと親しくなる場面で、二人は過去についての話をします。ポールは、弁護士になった時、「世界を変えたいと思った」と言っていました。その後ポールはルディの過去について聞いたのですが、彼ははぐらかします。それでもしつこく聞いてきたので、ルディはピアノ演奏者に「Fキーのブルースで」とリクエストして、アドリブで過去の自分を歌うのです。かっこいい!

 

この歌を聴いたポールは、「デモテープを送るべきだ」と録音機をプレゼントします。家族としての幸せの絶頂期、録音するシーンも良かったですね。そして、マルコが幸運のキスをしたテープかは分かりませんが、ルディはショーで歌うオファーを受けます。

 

そこで2回歌うシーンがあるのですが・・そのいずれも強烈でした。

どちらも、マルコとの別れという辛い出来事の後に挟み込まれるのですよね。見ている観客としてもブルーな気持ちになっているところに、彼の涙をたたえたような表情で歌う声が、心底染みたのです。

特に二回目、マルコが死んだ知らされた後の歌は、悲しみとも怒りともつかない、全身から湧き上がる感情を歌という表現で発露させたような、切り裂かれるような迫力。素晴らしいシーンでした。このシーンだけでも映画を見た価値はあったと言えるほど。

後で調べたら、アラン・カミングトニー賞を受賞した本物のシンガーなのですね!流石でした。

 

泣ける映画?

全く予備知識無しで選んだわりに、非常に良い映画と出会うことができました。

観賞後、ネットで他のみなさんの感想などを見ていたら、結構「泣ける映画」として紹介されている方が多かったようです。前述の通り私も涙流しましたのでそれは正しいのですが、どちらかというと淡々としたトーンで、泣かせの演出はむしろ抑えられていたようにも感じられました。

マルコが死んだことも、ポールの手紙を読むナレーションで知らされる程度で、悲しい出来事で泣かせる感じではなかったと思います。

私にとってはですが、家族の愛情と幸福感あふれる姿とその喜びに涙が出てくる、そんな映画でした。

 

まとめ

ルディたちはマルコのために戦いましたが、何一つ勝てませんでした。差別・偏見を覆すことも、権利を得ることもできませんでした。

無力さを突きつけられ、ポールは世界なんて変えられないと悟ったことでしょう。

ポールがルディに、「君は素晴らしい、何も恐れないから」と言っていたシーンがありましたが、それでも彼らは絶対不利な状況で戦った。恐れないで。

権利を勝ち取る戦いとは、先ず自らが勇気を奮い立たせないといけないのですね。

 

ゲイ同士の性の表現や下ネタのやり取りのシーンもありますが、全体的には品の良い、それでいて突き刺さるような素晴らしい作品でした。初めてのデートムービーという感じではないですが、若いカップルの方々も色々と感想を言い合えるような映画だと思います。