他力と自力と

家事と育児に追われるおじさんの、日記代わりの備忘録です

「星守る犬」 感想 ネタバレ

パッケージのイメージとは違う映画でした。

 

 

2011年 日本

監督:瀧本智行

映画は全く詳しくないのですが、好きでたまに観ています。

映画館にはなかなか行けないので、レンタルDVDでの鑑賞が主になります。

どんな映画を見たか、すぐ忘れてしまうので、備忘のための感想駄文です。

 

※以下ネタバレありなので、ご注意ください。

 

鑑賞前のイメージ

 

本作は友人夫婦にお勧めを頂いて借りに行ったのですが、パッケージを見てちょっと躊躇しました。ん~、いわゆる動物を使った泣かせ映画というか、個人的にはちょっと苦手なジャンルの映画に思えたからです。

そして西田敏行さん。言うまでもなく素晴らしい俳優さんなのですが、あのおどけ演技にいたたまれない気持ちになることもあるので、正直期待値は大分低く観賞を始めました。

 

ストーリーの概要

話は大きく分けて二つのパートで進行します。

ひとつは、北海道の役所に勤める玉山鉄二さん演じる奥津京介が、白骨化した男の死体が発見して、同じ場所で死んでいた犬に導かれるように、男の生前の行動を追うパート。序盤で旭川に帰る旅費の無い川島海荷さん演じる有希が加わり、二人でのロードムービーの様相です(「星守る犬」の意味を知ると、有希という名前はなるほどと思いますね)。

もうひとつは、西田敏行さん演じる「おとうさん」と秋田犬ハッピーの北へ向かう旅行。奥津たちは死体のそばにあったレシートなどから、おとうさんたちの行動を追い、東京から北上することになります。

 

個人的な印象

最初にちょっといまいちだった点を挙げてしまうと。。

この二つのパートは関連性があまり感じられませんでした。観ている私は、奥津の目線で映画を見ていたのですが、彼がおとうさんについて知ることと、おとうさんパートで示される話のボリュームが違いすぎるのです。おとうさんの行方を追って、彼と関わった人たちに話を聞いて彼らのことを知るわけですが、おとうさんパートではおとうさんとハッピーとの二人きりの道中や、ハッピーが来た時からの過去の話も示されます。

おとうさんパートはそれだけで独立した話で良いのですが、そのごく一部しか奥津たちは知らないはずなので、観客は奥津たちがどこまで話を知っているのか、最初に感情移入していた人と情報量にずれが生じて、把握できなくなってきます。私は自分の視点をどこに置いたらよいのか途中で迷ってしまいました。 

更に言うと有希の存在あまり生きていませんでした。川島さんはとても可愛く、一種の清涼剤というか目の保養にはなっていたのですが、話にはほとんど関係なかったような。序盤の演出も「いまどきイタタタって・・」という感じでしたし。。

つまり、白骨化した死体が先にあり、そこに最近まで生きていた様子の犬の死体もあって、それを追って男のことを少しずつ知るというサスペンス構造にするため以外に、奥津たちのパートの意味があまり無かったように感じました。奥津が犬を飼っていたのも、奥津がおとうさんの行方を追う動機にはなっていたようですが、いまいち納得できなかったり。

 この構造にするならば、特に終盤に示されるおとうさんの過去のエピソードは、できれば具体的には見せず、奥津がしているだろう程度に想像させてほしいと感じました。

星守る犬」の意味と、物語とのリンクも私にはいまいちわかりませんでしたし。。

 

と、たらたら文句を書いてしまいましたが、本作はそんな文句がありつつもとても好きな作品でした。

まず何より、犬たちの演技が信じられないほど素晴らしい!というか、ワンちゃんたちが監督の演出を理解して、台本の通り人間のように演じているようにしか見えません。特にクロが死んでしまうシーン。ボールを追って、力尽きて体を横たえ、目を閉じるという流れは、実際に死んじゃったところを映したのかと思いました。

パッヒーの演技も素晴らしくて、こちらもついに死んでしまう場面では、最後の力を振り絞っておとうさんの死体の傍に来たようにしか見えません。 

犬の演出で言うと、ボールをぶつけられたり薪をぶつけられたり、脚をビッコして歩いたりと酷いシーンがあったのですが、これらもとてもリアルでした。実際に怪我させたり・・してないですよね?どうやって撮っているんだろう。

 とにかく一見の価値ありです。

 

それ以外にも印象に残るシーンは色々ありました。

例えばラストの、ひまわり畑の真ん中にワゴンがあるシーンはどうやって撮ったんだろうと思いましたし、キャンプ場での季節の移り変わりも、時間をかけて丁寧にこの映画がとられたんだろうなと、美しさを満喫しつつ感じました。

そして、東北の太平洋側沿岸の美しい景色。私は母の実家が福島県原町市というところにあり、何度も福島の海には行っていました。私の祖父母も亡くなりしばらく海までは行っていませんが、この美しい景色を取り戻しているのでしょうか。

 

また、ちょっとした伏線回収が心地よかったりすることが多々ありました。

最初に出した無料宿泊券がしわしわだった理由や、ハッピーがワゴンの上から顔を出しているシーンなどなど。個人的には、二つの場面で焼き肉に「熱い」というセリフがずっしりきました。

 

あと、配役が適切だなと感じました。特に三浦友和さん!

一度譲り受けたハッピーを結局おとうさんに返すことになる一連の流れは、三浦さんの持つやさしさというか許容量が無ければ、面倒くさい客の嫌なシーンになっていてもおかしくなかったような。西田さんも、この人でなければ成り立たないような話であったと思います。おどけ演技もちょっとだけありましたが、流石でした。パッケージを見て躊躇しちゃってすみませんでした!

 

自分の過去すら本を音読するように、抑揚を抑えて話す玉山さんをはじめ、役者のみなさんの落ち着いた雰囲気は個人的に好きでした。

奥津はこの旅を終え、表面的にはあまり変わったように見えませんでしたが、捨てられた犬に向けて、この映画唯一にっこりと笑顔を見せました。彼はちゃんと成長していたのです。こんな演出も好きでした。

 

個人的な全体の感想

おとうさんは幸せな家庭を失い、職も失い、お金も失って行き倒れるように死んでしまいます。誰にだって起こりえることだと思います。追いつめられて終わりを決意した後、キャンプ場では幸せそうな家族が沢山いました。普通の生活をしているほんのちょっと隣に、何の救いも得られないまま失意に沈んでいる人がいるんだなと、改めて気付かされました。

 

パッケージを見て躊躇したような、居心地の悪い「泣ける映画」ではなく、 淡々とさみしい話を知ってゆく話です。私は涙は出ませんでしたが、犬をいまでも実家で飼っている奥さんは号泣していました。

それでも色々なシーンが心に残る、好きな映画。観賞して良かった作品でした。

 
書籍で、じっくり楽しんで見るのもよいかもです。